痙縮治療(ボツリヌス治療)とは
当院では、脳卒中の後遺症である痙縮(けいしゅく)に対して、ボツリヌス治療を行っています。ボツリヌス治療は、脳卒中などに由来する痙縮や片側顔面けいれん・眼瞼けいれん治療などの場合、厚生労働省認可の保険適用対象となる治療です。
痙縮(けいしゅく)について
痙縮とは、脳卒中を発症した後にみられる運動機能障害の一つで、片麻痺と並んで高頻度に出現するものです。上肢(腕)や下肢(足)の筋肉が過剰に緊張して突っ張るようになり、関節の可動域が制限されたり、勝手に動いたりするようになってしまいます。
たとえば手首や指先が握った状態のままで動かしにくい、肘が曲がったままで動かせない、足首や足が伸びたままで踵が地面に付かず(尖足)、歩くのが困難などの状態になってしまいます。日常生活において大きく支障をきたしてしまうことはもちろん、リハビリテーションの妨げともなり、さらなる筋力低下を招いてしまいますので、痙縮改善のための治療が必要となります。
ボツリヌス治療について
ボツリヌス治療は、この痙縮に有効な治療法で、食中毒の原因菌でもあるボツリヌス菌が作り出す天然のたんぱく質「ボツリヌストキシン」をもとにした薬剤を、筋肉内に注射するというものです。ボツリヌストキシンには、筋肉を過剰に収縮させ、緊張させている神経の働きを抑える効果があり、それにより筋肉を柔らかくすることができます。一方、ボツリヌス菌自体を注射するわけではないので感染などの危険性はありません。
日本においてボツリヌス治療は2010年10月に認可されたものですが、アメリカでは20年以上の実績のある治療法であり、長期的視点からみても間隔をあけて繰り返し使用することに関し問題が報告されていないなど、安心できる治療法となっています。
効果について
筋肉が柔らかくなることで、痙縮が和らぎ、痛みも軽減される他、日常生活動作がしやすくなったり、関節のこわばりや変形が予防されたり、さらにはリハビリテーションが行いやすくなる、介護する方の負担が軽くなるなどの効果が期待できます。
注射する部位は痙縮が現れている場所の筋肉で、患者さまによっては一度に複数個所に注射する場合もあります。注射後3~4日ほどで効果が現れ、3~4カ月間は持続します。この期間が過ぎると徐々に効果は薄れるため、初回で効果がみられた場合は。繰り返し注射することが推奨されます。ボツリヌス治療は副作用もほとんどなく、3カ月の期間を開ければ2回目以降も保険適用となります。
ただし、ボツリヌス治療だけでは筋肉を動かして機能を回復するところまでには至りませんので、痙縮が改善と並行して適切なリハビリテーションを行っていくことが重要です。曲がったままになってしまっている部位を伸ばしていく動作の訓練などを行っていきます。